タンパク質危機(クライシス)は本当におこる?科学論文5本読んでみてわかったこと

最近よく聞く言葉でタンパク質危機というのはご存知でしょうか?筆者も最近になって知り、2050年には世界人口は98億人に増加し、肉由来のタンパク質が食べられなくなるというものですが、実際のところ科学的な根拠はあるのでしょうか??

先日Semba (2016) のThe Rise and Fall of Protein Malnutrition in Global Health」(訳は「国際保健におけるタンパク質栄養失調」かな?)(科学雑誌Annals of Nutrition&Metabolismに掲載)と他の論文も何報か読んでみたので情報をまとめておきたいと思います。

タンパク質危機(Protein Crisis/Protein Gap)は昔から使われている古い言葉だった

Semba (2016)によれば、タンパク質クライシス(Protein crisis)という言葉は1968年頃までに国際機関などで使われていたそうです。ここ使われたタンパク質危機の意味は世界の子供の栄養失調はタンパク質不足(タンパク質を構成する要素であるアミノ酸の不足)で生じているというものでした。国連は1968年に”International Action to Avert the Impending Protein Crisis”(訳は”喫緊のタンパク質危機を回避するための国際的な行動”かな?)という報告書を出しております。

この報告書には7つの政策について記述があるそうです。

その後タンパク質危機という言葉は独り歩きし、世界中で大きな議論が起こったそうです。

1974年にタンパク質危機は存在しないという論文が発表

その後Donald S. McLarenという科学者が1974年に、タンパク質危機は誤りであり、存在しないという論文を発表しました。その論文曰く、世界の子供たちの栄養失調の原因はタンパク質不足によるものではなく、エネルギー(カロリー)摂取不足であるとしてました。

その論文以降タンパク質危機については言及されず、むしろ喫緊の課題であるカロリー不足を解決すべき(食糧不足)だという流れができました。

後にWaterとPayneという2人の研究者が書き、1975年にNature誌に掲載された論文では次のように述べられています。

‘(前略) the story of the protein gap shows the arrogance of supposing that we know the answers, and illustrates the need for a continuing critical examination of the premises on which action is based’

Water and Payne (1975)

(訳)タンパク質危機(protein gap)の一連の話は我々人類が答えを常に知っているという傲慢な思い込みを明らかにし、行動を決めるような前提(←タンパク質危機が存在するということ)は、いつも批判的に検証する必要があることを例をもって明らかにした。

タンパク質危機をはっきりと示す論文や研究があまりないのに議論を進めたことが問題だと言っているのですね。国連の発表だとすぐ信じてしまいそうですが、科学的な根拠があるかチェックする必要がありそうです。

一方、最新の研究動向では、子供の発育不全はタンパク質不足であるという仮説を証明しようとしています。例えばSchönfeldt et al. (2012) の研究によると、タンパク質不足がしがちなキャッサバやトウモロコシを主食としているアフリカ地域では普段の食事でタンパク質(必須アミノ酸)が不足しており、子供たちの発育不全が引き起こされているとしています。

このアミノ酸の摂取と子供の発育不全の関係は早く明らかになるといいですね。

世界の動物性お肉(タンパク質)が不足するというデータはない

Trends in Food Science & Technology誌に2011年に掲載されたAikingという研究者の総説(レビュー論文ともいう。たくさんの過去の論文をまとめた論文)は、世界のタンパク質供給について調べ上げており、わかりやすいので、役立ちそうな情報だけピックアップしてみます。

By 2050, a world with 2.3 billion more people will need 70% more food.

(Bruinsma, 2009)

(訳)2050年までに、今より23億人人口が増え、今より70%も多くの食糧が必要になるだろう。

どういう試算をしたのか詳しくはBruinsmaの2009年の論文を調べてみてください。ここで注意してほしいのは、Aikingはタンパク質が不足するとは言及していないということ。現状タンパク質がいくら不足するのかという具体的な情報は、筆者が調べた限りないみたいです。ただ、タンパク質需要が増えることはAikingの論文に述べられていました。

Steinfeld et al. (2006).を改変

2000年から2050年にかけて、世界人口は50%増加するのに対し、お肉の生産量は100%増加します。したがって、お肉が不足するという具体的なデータにはなりません。ただ、お肉を作るには非常にエネルギーとコストがかかってしまいます。そこでもっと環境にやさしいタンパク質供給源はないかと近年注目されているのが微細藻類と昆虫食です。
このお話はまた別の記事にて。

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